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男に支えられ案内されたのは、あの忌々しい路地裏からそう遠くない寂れた家だった。
家というよりは小屋の方がしっくりくるかもしれない。少なくとも先ほど男が称した"館"とは程遠い。電気の無いらしいその部屋の中は、ろうそくと昔ながらの暖炉の灯りに照らされていた。
「ほら、これ使え」
そう言って投げ寄越されたタオルを慌てて受け取る。
「そこ座ってな」
ソファを指差してから、男は奥の部屋に入ってしまった。
ロベルトは言われた通りソファに腰を下ろし、周りを見回した。このソファに、小さなテーブル、数冊の本が置いてある棚と、簡単な仕事机と椅子…狭い部屋にあるのはそれだけだった。
「ほらよ」
「…ありがとう」
奥の部屋から出てきた男はその手に持ったマグカップを差し出した。ホットミルクだ。ロベルトはそれを受け取った。奥の部屋はキッチンになっているらしい。
男は椅子に腰掛けた。相変わらず長い前髪で顔はよく見えない。
「で、俺に何の用だ?」
「僕は…ある人の紹介であなたを訪ねるようにと言われて、ここに来ました」
「ある人?見た所お前さんサバーブ出ってところだろ?サバーブに知り合いなんぞ覚えがないが、いったいそりゃ誰だ」
「僕の父の友人です。でも彼はあなたを知ってるとかそういう風じゃなかった。ただ噂で、ここに行けば仕事を貰えるかもと」
「へぇ。俺も有名になったもんだ。アンタ名前は?」
「ロベルト、ロベルト・カーラーン」
「ロベルト。良い名だ」
言いながら男は立ち上がり、ロベルトの方に近づいてくる。そして握手を求めるように手を差し出した。ロベルトは急いでカップをテーブルに置き、握手に応じようとした。
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