発端

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呆れたような声を上げた美奈に、視線だけで私に言われても困るわよ、と訴える。 自分で意識した返事ではなかったということか。 箸が進まない定食の食器がそのことをありありと表していた。 「ではみぃ先輩は心神喪失状態だったわけですね。それで得心がいきましたわ」 2年後輩である橘夏樹(たちばな なつき)はウンウン、と頷いた。 可愛らしい外見に見合ったおっとりした口調がとても彼女らしい。 夏樹はこの会社の代表取締役、つまりは現社長の娘だ。 入社当時、隠してはいなかったが、聞かれもしなかったので自分の立場など気にしていなかったが、どこからでも情報は回るもので。 社長の娘と知るや、陰口を言われたり、諸先輩方からイジメらしきものをうけたりしたが当の本人は『どこ吹く風』で。 イジメをイジメと認識していなかった彼女は 「皆様に良くして頂いて…私は果報者ですわぁ」 と、周囲の妬み感情を脱力させてしまった強者だ。
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