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誘う声がする。
誰を呼んでいるのか。
高く、低く。一定のリズムで心に染みこんでくる。
不快ではない。
むしろ心地いい声に、精神が落ち着いてゆく。
疲れきった心は安らぎを求め、その音にゆっくりと調子を合わせる。
コップに水が満たされるように、潮が満ちていくように、乾いた大地に雨水が浸透するように。
胸に拡がる清々しい音。
リズムは変わらない。
凛とした響き。
(どこかで聞いた?)
少女は思った。
(どこで?)
誘う声……。
違う。逆だ。
抑える声。
─────まだ駄目だ。時が満ちていない。
いま一度、眠りにつきなさい。
時期が来たら、自然に目覚める。
無理に起きてはいけないよ。
もう少し……安らかな眠りを。
「あなたは誰?」
誰何した少女の周囲には誰もいない。
無限の空間の中で桂月は知らず尋ねていた。
────きっと近いうちに会えるから、心配せずに眠りなさい。
「また……会える…………」
温かい空気に包まれる。
声は消え失せた。
羊水に漂う胎児のように身体を丸めて微睡んでいる桂月。
(ここは温かい。おやすみ……なさい……)
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