第1章 桜

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「桂月、朝ですよ。起きなさい」 母の声がした。 「え?」 ぱちっと目を開く。 カーテンを開ける音がした。 寝起きの瞳に眩い光が差し込み、激痛が疾走った。 「痛っ……!」 焼け付くような痛みはじりじりと眼球を蝕んでいく。 「桂月っ?」 悲鳴に、部屋を出ようとしていた桃香が桂月を振り返った。 顔を両手で覆い、ベッドの上でのたうち回っている。 「桂月。桂月? どうしたの?」 上を向かせやんわりと娘の両手を顔から外すと、涙が溢れている瞳をゆっくり開かせた。 短く息をのんだ桃香の様子を、異変と感じ取った桂月は今だ流れている涙を軽く拭い、痛みに耐えながら状況を尋ねる。 「桂月……」 名を呼ぶ以外声が出ない母。 一度、深く息を吸い込んで吐き出すと静かに彼女に告げた。 昨日まで、色素は薄くとも茶色だった桂月の瞳は、美しい真紅に染まっていたのだ。
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