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しばらくして、痛みが和らぐと桂月は落ち着いたようだ。
母に手を引かれ、階下の洗面所に向かった。
桃香の話が真実かどうか、自分の目で確かめたかったからだ。
濡れた瞳をゆっくりと開ける。
まだ少し鈍痛があるが視界に異常はない。
「ありゃ……ホントだ……」
小声で呟いた。驚きの色が含まれてはいたが思ったより冷静な自分がいた。
食い入るように鏡を見つめ、素直に現実として受け入れている。
鮮やかな赤だった。
「真っ赤だね」
いきなり降りかかった自分への出来事に、何となく面白味が湧いてしまった彼女はもうニコニコしながら鏡の中を覗き込んでいる。
「学校はどうする? 痛みがあったんだし、今日は休んだほうが……」
桃香の懸念はもっともで、瞳だけアルビノのような状態だ。
人前に出るには少々奇抜すぎる。
「これはコンタクトです! とごまかす……」
「……校則違反ではないでしょうけど、やめたほうがいいんじゃないかしら?」
ため息混じりに母に却下される妥協案。
「うーん……結膜炎! じゃ、じゃあ単なる充血……」
結膜炎も充血も白目に現れる症状だ。
「ひとまず今日は欠席しなさいね」
腕組みされて、再び溜息を落とされては従うしかないだろう。
視力に問題はない。
痛みも引いて、どうやら生活にも支障はないようだ。
そこまで思い立つと、桂月の頭に浮かんだのは「原因究明」の文字。
「母上は、何か心当たりあったりする?」
自分の瞳を指差して、無駄だと思いつつも聞いてみる。
お得意の勘だけではなく、赤い瞳を見た桃香を取り巻いていた空気が驚きだけではない、別の感情を含んでいたように感じたのだ。
こうなる事態を知っていたような……。
「そういえば……あれって誰だったんだろう?」
インパクトの強い現実が起きたせいで忘れそうになっていた、夢の中の声の主。母に質問した途端に思い出したのだが、さっぱり検討がつかない。
穏やかな、とても安らいだ気持ちにさせてくれた声……。
「なに騒いでん……うわっ何? その目」
弥が起きてきた。
「かっこいいでしょ?」
「うん」
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