第1章 桜

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それよりももっと重大なことがあるはずなのに、気づいているのかいないのか……。 すみませんが……と母の声が聞こえた。 モグモグと食を進めながらテレビを付ける。 ───未明、今月の2日に捜索願が出されていた女性は、遺体となって発見されました。 死因は首の頸動脈からの失血死によるものと判明。 他に目立った外傷は無く、頸動脈付近にあった2箇所の鋭利な凶器での刺傷が原因と見られています。 警察は女性の交友関係などでトラブルがなかったかなど捜索中です。 ニュースは続いている。 「人間1人殺しておいて…………平然と日常生活を送れる精神力ってどうなのよ」 3枚目のトーストに手を伸ばしてマーマレードを塗る。 「相変わらずよく食べるわね」 電話を終えた桃香は汚れた食器を重ねながら桂月に声をかけた。 ムシャムシャとパンをかじりながら彼女はものすごくおなかが減るんだもん、と反論する。 コーヒーをひと口すすって、口の中を落ち着かせると今度は殊勝なことを言い始めた。 「今日暇だから、片付けと、洗濯と、掃除は私がするね。母上は仕事してていーよ」 「あら。助かるわ。じゃあお願いします」 ウンウンと頷く桂月に、食器割らないでね、とひと言忠告してから書斎に向かう桃香。 ヒラヒラと手を振って送った彼女の手には4枚目のトーストが掴まれていた。
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