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「起きろ」
(……まだ無理~)
起床を促す声に心のなかで反論する。
「起きろ」
(だから無理だってぇ~)
「……お・き・ろ」
(お布団、気持ちいいんだも~ん)
「はぁ~……」
声なき反論は毎回のことだけど、と起床を促す主は深~く息をつく。
「………………おい」
(もう少し……寝かせ……て……)
反抗心は布団をかぶる態度に現れていた。
「入学式、遅れるぞ」
(はいは~い……)
「義務は果たしたからな」
(は~い………ん?)
「新入生」
(新入生…………ん~?)
「はっ!」
バチッと目が開く。今日は入学式だったことを思い出す。
「もっと早く起こしなさいよ!バカ弥!」
悪態づきながら、真新しいブレザー式の制服を手に部屋を飛び出た。
「声掛けしただけでもありがたく思えよ。バカ姉貴」
姉、桂月の口の悪さはいつものことで。寝坊助なのもいつものことで。弥が声掛けするのもいつものことだ。
脱衣所で身支度を整えた桂月は食卓へと急ぐ。
どんなに時間が押していても食事だけは欠かさない。
食べ盛りの高校一年生女子。
しかし急いでいる分、食べ方が少々……。
「きったねーなぁ。女子なんだろ、お前」
「ふが─────っっ」
反論……したくても口が塞がっている。
よく噛んで飲み下してから改めて(当人にとっては)正論を述べる。
「腹が減っては戦は出来ぬ。これから半日は緊張してなきゃいけないと思うと、もう…」
「食べるのは構わないけど、もう8時半過ぎてるわよ。式は9時半からでしょう? 遅れるんじゃなくて?」
冷静に状況を指摘したのは2人の母、桃香である。
もう一枚、と持っていた食パンが桂月の手から滑り落ちた。
弥も桂月も、リビングの壁にかけてある時計を目視すると同時に叫んだ。
「「ぎゃ────っっ!」」
ドタバタと鞄などを2階に取りに上がる2人は口論しながら準備をしている。
「子供たちは元気があっていい。天気もいい。そろそろ会社に行こう」
騒がしい毎度ながらの朝の光景をのんびりと眺めていた父、統斗はコーヒーを最後まで飲み干すと席を立つ。
「いってらっしゃい。あなた」
喧嘩をBGMに玄関先でいってらっしゃいのキスを交わす夫婦。ここの家族には悩みなど存在しないようだ。
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