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「弥!後ろに乗せて」
言うが早いか、すでに弥の肩に手をかけ自転車のリアにでーんと乗っかっていつでもOKの状態だ。
「言っとくけど、道交法違反だぞ。2ケツは」
「今は非常時だから私が許す」
「それと、姉貴は重い」
「殺されたい?(にこ)・・・つべこべ言わずに行った行った!」
ヘイヘイ、と素直に従う弥は身長182。中学3年で成長期とはいえ、ずいぶん長身だった。
その長い足で踏み込まれるペダルの回転数は平均と比べても半端ないくらい多い。
結果として、式には間に合いそうだ。
高等部の正門に到着したのは9時を少し回ったところ。
「ありがと。帰りもお願いね(にこ)」
自転車が停止すると同時にリアから鮮やかに飛び降りた桂月は、迎えに来いとお願いする。
半ば強制……。
「……東屋のソフトクリーム1つとラムネ付きで手を打とう」
「…………ま、いっか。取引成立」
「やりィ」
「正門で待ってるからね」
ヒラヒラと後ろ手に手を振り、弥は1キロ先の自分の中等部へ向かった。
ほとんど隣接しているようなものだ。小等部は中等部のさらに1キロ先だが。
ここ、枝振学園は小・中・高とエスカレーター式。同じ敷地内に設立すればいいものを面倒な別敷地にしたのは現3人の理事長のせいらしい。
他界した先代より子供である3人の兄弟に遺産相続させたら喧嘩しないよう3分割してしまったのだ。
『3つ子だから遺産も3分割で恨みっこなし』
という主張があったとかないとか……。
争うくらいならと周囲も納得して現在に至っている。
ひとまず遅刻は免れた桂月は、まだまだ登校してくる新入生を眺めながら両脇に伸びる桜並木を進んでいく。
春先特有のさわやかな風がハラハラと散る桜の花びらを巻き上げる。
親子連れがほとんどの生徒の間を、1人だけ取り残されたように桂月は足をとめた。
周囲が親子連れだからと悲観しているわけではなく、桜に魅入っているからだった。
時折、突風が吹いて視界を遮ってしまうがそのことが現実世界から意識を切り離していく。
呆けている彼女の方にポンっと手が置かれた。
「どうしたどうした? 口開けてボーっとして。晒し者になってるよ」
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