動物"が"話せるお医者さん

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動物と話せる!と、豪語する人は、世の中にはいる。 獣医師たる私は、そんな能力にただただ憧れた。 そう、"憧れ"。 どんなに願っても、神様が私にその力を授けることはなかった。 もちろん、獣医師な以上、鳴き声で動物の気持ちが少しは分かる。 でも、それを"話せる"とは言えないだろう。 少なくとも、私の想像とは違う。 しょせん、私の、いたって平々凡々な耳には、 犬なら「ワンワン」 猫なら「ニャーニャー」 ネズミなら「チューチュー」……って鳴いてるネズミを、私は見たことはないわね。 とにかく、ふつうの鳴き声にしか聞こえない。 ほら、診察室のベッドに立つあの鶏だって……。 「クックドゥードゥルドゥー」 へ? まてまて、落ち着け自分。 私の生まれは東京の片田舎の青梅で、その両親は上京者同士だから東西の血が混ざってはいるけど、完全なる純血の日本人で。 英語は下から数えた方が常に早くて。 つまり、えーと、私が鶏の鳴き声を英語に聞き取るはずなんかないわけで。 ……つまるところ、これは気のせいね。 ほら、見てごらんなさい。 再び大きく口を開けた姿を。 きっと、日本人なら誰もが知ってる、あの有名な鳴き声を……。 「クックドゥードゥルドゥー」 聞かせてくれないわね。 いやいや、でも、それって、いったい……? ハッ、きっと、そういう病気なのね! 「あんさん、鈍いなぁ。ええ加減、気ぃつけや?」 しゃ、喋った!? あの、「コケコッコー」以外に鳴けない鳥が、なぜか関西弁を喋った!? 「おまえさん、ちょいちょい失礼な事思ったやろ?」 う、思考が読まれた。 鶏ごときに。 「ほんまええ加減にしぃや」 この出会い。 これこそが、私の運命を大きく変える出来事になったのは、言うまでもない。
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