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「私を脅す作戦かね?」
昭仁は静かに言う。
数秒間の沈黙を破ったのは、マリアだった。
「だって、酷いじゃない!これだけ、夫の会社のお客様を、たくさん紹介してあげたのは私よ!」
「一連の援助に関しては、本当に感謝しているよ。だが、それと君があれを盗んだ事は、別の話だ。
そもそも不倫を持ちかけてきたのは、君のほうじゃないか、マリア。
あの日の夜、誘惑したのは君のほうだ」
もう、昭仁のいつもの穏やかな面影はなかった。
何も言わないマリアに、昭仁は立ったまま、話し続ける。
「それに君だって、私との関係がバレたら、夫とはどうなるんだ?私ばかり脅しているが、自分の立場を考えたことはあるかね?息子だっているのに…」
「……私たちはもう、今さら誰とどうなっても、変わりないわ。仮面夫婦だから」
マリアの頬を流れたひと雫の涙が、窓から差し込む月の明かりに反射して、キラリと光った。
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