第43章:裏切り者と呼ばれた背景に -後編-

5/15
前へ
/15ページ
次へ
「私を脅す作戦かね?」 昭仁は静かに言う。 数秒間の沈黙を破ったのは、マリアだった。 「だって、酷いじゃない!これだけ、夫の会社のお客様を、たくさん紹介してあげたのは私よ!」 「一連の援助に関しては、本当に感謝しているよ。だが、それと君があれを盗んだ事は、別の話だ。 そもそも不倫を持ちかけてきたのは、君のほうじゃないか、マリア。 あの日の夜、誘惑したのは君のほうだ」 もう、昭仁のいつもの穏やかな面影はなかった。 何も言わないマリアに、昭仁は立ったまま、話し続ける。 「それに君だって、私との関係がバレたら、夫とはどうなるんだ?私ばかり脅しているが、自分の立場を考えたことはあるかね?息子だっているのに…」 「……私たちはもう、今さら誰とどうなっても、変わりないわ。仮面夫婦だから」 マリアの頬を流れたひと雫の涙が、窓から差し込む月の明かりに反射して、キラリと光った。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加