記憶

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水波は、白井、蒼井。 この3人の中で一番地位が高く、武士の家系でも家老の人間だった。 それは白井も蒼井も承知の上でいつも水波の家に遊びに来ている。 水波は昔から体が弱いせいもあり、友人と言える友人は白井達だけだった。 本来ならば友人でも、「水波様」と呼ばねばならぬが、白井はそんな地位とかを気にするタイプではなく、堂々と「水波」と呼んでいる。 水波の次に地位が高いのは、蒼井。 蒼井は武士の家系であり、義理堅い。 そのせいもあってか、「水波様」と呼ぶし、水波に刀の稽古に付き合うことも多々あった。 そして俺。 白井は武士の家系ではなく、医者の家系であり、両親は勿論のこと医者。 だが俺は、毛頭医者になる気など無く、軽い知識は頭の中にあるが、武士になりたいのだ。 そのせいもあり、家族とは上手く行っておらず、水波の家に行くことも反対されている。 まあ、そんなこと関係ないけどな。 だが白井の家系は医者なので、周りも白井が武士を目指すことに反対だし、医者だって数少なく、その数少ない医者の中でも、白井家は優秀であった。 そのせいか、幼少の頃に叩き込まれた知識は忘れてはいないし、今でも役立つことはある。 だからこそ俺は武士になりたいのだ。 なにも考えず武士になりたいと言っている訳では無く、この時代、刀を扱える医者など存在しないのだ。 だから俺が、戦に出ても怪我を負った人間達を治せるような、そんな医者になりたいのだ。 医者という人生を完全に捨てた訳ではない。 それだけは理解してもらえたのか、刀を握る許可は貰えた。 それでも、 家老家の水波は俺が武士になることには反対だった。 それは蒼井も同様。 それが何故なのか。 今の俺に知る由など無かった。
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