記憶

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ペラ―――― 静かな書物ばかりの部屋に、ページを捲る音だけが響く。 外の音を完全にシャットアウトし、薄暗い部屋。そこにいるのは、白井。 白井は沢山の書物に囲まれ、書物に目を通していた。何度も読んだことのある書物。 薬の調合等が記されていて、沢山のメモ書きが残されていた。 その書物を閉じ、棚に戻せば溜め息を吐く。 気を紛らせたくて書物を読んでいた。 それなのに、中々気を紛らすことが出来ず、考えてしまうことは水波のことばかりだった。 いきなりあんな事をして、気持ち悪いと思われただろうか、とか。 今なにをしているのだろうか、とか。 水波の顔が見たい。 水波と話をしたい。 けれど、 家老の家に、そう何度も行けるものでもなかった。 また明日にしよう。 そう考えて、先程とは別の書物を手に取り目を通す。 「……………」 モヤモヤする。 ムカムカして、胸が熱くて。 「はぁ……」 なんなんだ。 書物を結局元に戻し、薄暗い部屋に座り込む。胸を抑えながら、再び溜め息を吐く。 胸が熱い。 何故? そうだ。なにかの病気かもしれない。 それなら、ここの部屋にある書物に何かあるかもしれない。 とんでもない病気だったら嫌だしな。 書物の題名を片っ端から見て、心臓に詳しい書物を片っ端から目を通した。 でも、 当てはまるものはなかった。 一度、医者に掛かろうか。 いや、でも、医者の息子の俺が医者に掛かるなど、情けない。 なんなんだ、これは。 なんでこんなにも苦しくて、胸が熱くなる。 どうして、水波のことばかり考えてしまうのだ。
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