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「水波っ、水波はいるかっ」
スパンっ―――
中々人の気配がないと不安になる。
そのせいか、内心どこか焦りながらも、水波の部屋を開ける。そこに寝起きの水波が居て安堵してしまう。
「…うるさい、白井」
布団から上半身だけを水波は起こし、白井を睨んだ。
そんな水波に白井は相も変わらず、
「いるんだったらいるって言えよ、馬鹿水波っ」
と、暴言に似た言葉を吐く。
そうすれば、寝起きだというのに水波は怒り出す。
「こっちゃあ今起きたばかりだっ!」
「んなもん知るかっ!もっと早く起きときゃいいだろっ!」
ギャーギャーしばらく騒いでいれば、ようやく落ち着いたように白井も水波も黙り込んだ。
「たい焼き買ってきた。
食うぞ」
「……ありがとう」
そして、蒼井も相変わらずクスクス笑っていた。
「ああ、そうだ。水波、お手洗い貸して貰っても良いかな?」
「うん」
蒼井は水波にそんな許可を取るなり、そそくさと出ていく。
シ―――ン―――
沈黙。
白井は水波をボーッと見れば目が合う。
水波は目を逸らし、あくびをした。
「…目の下に隈がある。
そんなにバタバタしてたのかよ」
たまには気遣ってやろうと、そんな言葉を掛ければ、水波は気持ち悪い物でも見たかのような表情を浮かべ、一気にイラっと来た。
足蹴にでもしてやろうと思い、水波に近づけば、水波は小さくだが言葉を漏らす。
「……ありがとう」
と。
「は…――?」
ありがとう?
水波はなんの礼を言っているのだ。
礼を言われるようなことを言った記憶はない。
白井は頭の中をグルグルさせながら、足蹴にするということを忘れ、水波の近くに座った。
コチコチと時計の針が動く音が聞こえる。
水波の呼吸。
「……白井でも気遣いというのが出来るのだな。静かでビックリだ」
「あ?知るかよ。
てめぇが大人しいからだろ」
「…………そうだな」
なんだ、こいつ?
今日はやけに大人しい。
いつもだったらギャーギャー騒ぐくせに。
いや、既に騒いだ後だけど。
くそ、
心配になる。
どっか頭打ったのか?とか。
悪い物でも食べたのか?とか。
「…………」
儚い。
今の水波が儚く見えた。
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