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「…オレ…さ」
「あ?」
静かな部屋の中。
時計の音と、二人の呼吸。
「…結婚。…するかもしれない」
「……あ…そ」
もや―――
結婚、ね。
まあ、そりゃ家老の家ともなれば、本来なら二十歳になったら結婚しなくちゃならないのを、今の今まで結婚してなかった方が可笑しいわな。
「どこと?」
「八重家の一人娘。
一目惚れ、なんだって」
一目惚れ?
「ふぅん。
水波は好きなわけ?」
ズキ―――
なんでだろう。
胸が痛くて、苦しくて、熱い。
最近は無かったのに。
「………さぁ」
水波を見れば、酷く傷ついた顔をしていた。
なぜ、そんな顔をするのだろう。
自分で結婚するかもしれない、などとぬかしておいて、その顔は、反則だ。
「…水波、他に好きな奴でもいるわけ?」
「…ッ……」
なんだよ、図星かよ…――
あからさまに顔赤くしやがって。
ムカつく。
水波の癖に。
おまえはずっと、俺だけ見てりゃ良いものを。
「まあ、いてもおかしくねぇわな。むしろその歳でいねぇって方がおかしい」
「い、いるなんて言ってないだろっ!そ、それに、オレは……」
「なんだよ」
顔真っ赤なの自覚してんのかね。
一ヶ月振りだってのに、相変わらず無防備な訳だし。
だから、
これは気の迷いなのだ。
「……水波」
つい、手を出したくなる。
「しろ、ん、っ」
熱い息に熱い鼓動。
そう。
気の迷い。
男の水波に男の俺が手を出すなどあってはならぬこと。
だから、こんな気持ち、数分経てば消えるだろう。
「ふっ、う、白井、なにすっ」
顔を真っ赤にする水波。
愛しい。
そんな風に思ってしまうのは何故だ。
こんな馬鹿な奴を愛しいと思うなど有り得ない。
白井は水波の手に己の手を重ね、一度離した唇を再び塞いだ。
一生懸命その行為を止めようとする水波だが、それでもどこか、大人しかった。
不意に「好き」なんて言葉を漏らしそうになる。
好き?そんな感情を抱くわけがないだろうが。
「無防備過ぎる水波が悪い」
顔を赤くして、寝起きだからだろう。
乱れた髪で。
はだけた着物。
水波の白い肌をぐちゃぐちゃにしてやりたくなる。
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