高鳴り

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ぐちゃぐちゃにしてやりたくなる。 なんて、そんなことを思っても実際は手を出せないのだ。 水波を見れば、頬を淡いピンクに染め、涙目で目を逸らす。 「…………」 そんな水波を見るのと同時に、白井は正気に戻った感覚に捕らわれ、つい咄嗟的に水波から離れる。 沈黙が流れるまま、水波は体を起こし、白井を見た。 「……今夜。 時間空いてるか?」 「はぁ?なんで」 たった今襲われ掛けたのに、その襲った相手に今夜空いてるかなど、無用心にも程があるし、無防備過ぎる。 一体コイツは何を考えてるんだ。 「渡したい物があるんだ」 「渡したい物?今じゃ駄目なのかよ」 「………駄目だ。今は…渡せない」 今は、ってそれはつまり、夜なら渡せるということだから、なにか注文していて、それが夜には届くと、そういうことなのか? 水波は長い髪の毛を1つに後で結い、布団から出る。 「…わかった」 と、それだけを言い、白井は水波の部屋を出る。きちんと襖を閉めて。 いつもと同じ場所に腰をかけ、溜め息をはく。 「なぁ白井」 「なんだよ、着替えるみたいだったから出てきたのに」 襖を通しての会話。 お互いの顔は見えない。 だから、水波の声がどこか普段と違うように聴こえた。 「…なんで……その、キスなんてしたんだ」 なんとなくだが、水波がそんなことを聞いてくるような気はしていた。 声のトーンが普段よりも少しだけ高いし、ほんの少しだけ声が震えていたから。 緊張しているのか。 「…さぁ」 「ちゃんと答えてくれ! こんな…ハッキリしないままなんて嫌だ」 ハッキリって。 なにをハッキリしろと言うのだ。 自分だっていまいち分かってない。 それに、ハッキリしないままが嫌だって。 コイツはそれをどんな顔をして話しているんだ。 「………」 「白井…オレのことが好きなのか?」 「っぶ、っははははっ」 思わず笑わずにはいられなかった。 まさか、ストレートにそんなことを聞かれるなんて思わなかった。 それに、 自意識過剰なんじゃねぇの? 笑って笑って笑うしかなかった。 「わ、笑うなっ」 襖の先に水波がいて良かった。 俺は今、自分でもどんな顔をしているか分からない。 分かることは、鼓動がやけに早く、普段よりも顔が熱い気がする。 ただそれだけ。
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