高鳴り

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蒼井にも言われた。 水波のことが好きなんだろ?と。 だけど、水波は幼馴染み。 それに男だ。 そして、家老の息子だ。 「…ありえねぇ」 独り言のように呟けば、水波は着物に着替え、部屋から出てきた。 髪も結び直されている。 「そういえば」 「なに?」 「蒼井、遅いな、と思って」 確かに…――― 便所に行くだけで、こんな遅くなるか? 大? いやいや、迷子とも考えづらいし、誰かと話してんのか? 水波は白井の隣に座り、桜の木を眺めるようにすれば、優しく微笑んだ。 「…ま、そのうち帰ってくんじゃね?」 「ああ…――― なぁ白井。来年も、3人で花見をしたいな。おまえの買ってくるたい焼きを食べて、温かい茶を飲んで」 夢を語るように水波は話す。 来年も、また、か。 それはきっと、白井も蒼井も願っていることで、この夢は3人とも同じ。 来年が来れば、また来年も言う。 毎年同じことをするのだ。 それが喜びに感じることが出来、幸せだと感じれる。 生きていると実感する。 「当たり前だろ」 「…そう言うけどな。 未来なんて不確定なんだぞ」 ムッとしたように水波は白井を見る。 白井はそんな水波に呆れたように口を開く。 「未来の心配するくらいなら今現在を心配しろよ。いつ戦争が起こるか分かんねぇんだから」 「…そうだけど」 何をそんなに心配しているのか、と。 聞きたい気持ちもあったが、そんなこと聞ける訳なかった。 そして溜め息をついに吐いてしまう。 「な、なんだよ」 「いや?高貴なるお坊っちゃまは心配性だなぁと」 「お坊っちゃま言うなっ!こっちだって好きでこんな家に生まれた訳じゃない」 そうは言うが、こっちからしたら羨ましい話ではあるのだ。 やはり武士の家でない白井の家系は金銭的に厳しいのだ。医者であるからまだやっていけている。 だが、医者じゃなかったら今頃どうなっていたことか。毎日毎日、たい焼きを買ってやる金などありはしない。 「へーへー。ま、でも?水波ならなんとかすんだろ?地位に捕らわれず、ちゃんと一人の武士としてさ」 「……努力はしている。 だが、家老の子息というだけで他の武士からは差別ばかりされている。 そういうことをしない白井には感謝してるよ」 「感謝してんだったら、それ相応の態度で居て欲しいもんだ」
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