高鳴り

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「キスごときで何言ってんだよ」 と、言って逃げるしかなかった。 水波が言うのも納得出来る。 俺も水波も男だと言っても、その男にキスをしたのは俺からなのだから。 なんて言い訳をしようか、なんてことを考えてしまう。 「……キスごときって言うけど……―――」 「初めてじゃねぇだろうが」 「ば、ばかっ。小さい頃からずっと一緒に居て、知らないとは言わせないぞ。 オレに……そんな仲睦まじい女なんて…いた試しないだろ…」 相も変わらず頬を染め、水波は目を逸らす。それと同時に「確かに」と思う自分がいた。 水波とずっと一緒に居て、水波にそんな相手が居るなど見たことも無ければ、聞いたこともなかった。 つまり、 「は、え?まじ?」 「わ、悪いかよっ」 俺としたキスが初めて…、つまりファーストキス、ということになる。 思わず申し訳ない気持ちに捕らわれてしまう。そんな白井を見て、水波は明らかに機嫌を悪くした。 そんな水波をフォローしてやれば、更に機嫌を悪くしてしまう。 「わ、悪かったって…―― ま、まさか、その…なぁ?」 「なぁ?じゃないっ!どう責任取ってくれるんだよ!」 「…は?責任?」 責任って…――― コイツ、それを普通に言ってみせるところが、流石水波というか、なんというか。 はぁ。 「責任って、なにをどうすればいいわけ?キスした責任ってなに?」 「そ、それは……」 「抱けば良い訳?」 「ばっ、な、なんでおまえは…――」 冗談とかを抜きにして、キスした責任をどう取れば良いのか分からぬ為、そう聞くしかなかった。 それなのに、水波は困ったような顔をして、白井は別にそんな顔をさせたくて言った訳じゃなかった。 だから、どうすればいいのか本当に分からなくて、どうすれば話を変えれるかどうかばかりを考えてしまい、気まずい沈黙が広がった。 「…そ、そういえば、白井は好きな人ぐらいいるんだろ?」 と、考えていることは同じだったのか、水波は白井に気まずそうにそう聞いた。 白井からすれば、困る質問ではあったが。 胸が相も変わらず苦しくて熱い。 「…好きな人、ねぇ?」 付き合ってる奴はいない。 けれど、好きな奴、か。 「水波」 「…へ?」 「って言ったら、どうする?」 「か、からかうのもいい加減にしろっ!どうしておまえは、いつもいつもオレばかりからかうんだ…」
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