59人が本棚に入れています
本棚に追加
「からかってねぇけど」
「じゃあ……なんなんだよ…――
からかってるとしか思えないよ」
しゅん、と落ち込んだかのように水波は俯く。そんな水波の頭に手を置き、わしゃわしゃと頭を撫でてやれば、「な、なんだよっ」と水波は可愛らしく言うのだ。
「冗談でもなんでもねぇけど、責任って何取れば良いのか分かんねぇし、俺だって…なんでキスしたのか分かってねぇし」
「…………」
本当の事を話せば水波は大人しく黙り込み、俯いたままだった。
それなのに、水波は白井の着物を小さく掴みボソリと呟いた。
「…その返答は…ズルい…――」
とだけ言えば、なんとなくだが、キスしてやりたいとか思ってしまった。
そんな自分が無性に恥ずかしなって、動悸が早くなる。
返答がズルいもクソもあるかよ。
意味わかんね。
「ま、まあ、好きな奴とか居ねぇと思うけど…――」
そもそも好きな奴って聞かれたとき、水波が頭に浮かんでしまった。
ま、蒼井とかに水波が好きなんだろ?とか、水波自身にオレのことが好きなのか?なんて聞かれれば、そうもなるか。
「で、責任ってなに取れば良いの」
「そっ、その話は忘れろっ」
もしも俺が、本当に水波のことを好きなんだとしても、それは絶対に叶うことのない恋心だ。
身分とかの前に性別という壁を越えることは出来ないのだから。
こういうのをなんというんだっけか。
衆道とでも言うのだっけ。
男同士の同性愛者。
「……はぁ」
男が好きとか、マジありえねぇ。
「なぁ、白井。
たい焼き」
「んあ?
あ、ああ、ほんと好きだな」
「ああっ」
たい焼きごときで嬉しそうな顔をする。
毎日毎日懲りもせず良く食べるなぁとも思うが、そんな水波の笑顔が見たいから、たい焼きを買ってきてやってるのかもしれないと思うと、やはり胸が熱くなる。
そして気付いたのだが、胸が苦しくなったり熱くなるときは、水波が関わっている時なのだと気づいた。
最初のコメントを投稿しよう!