高鳴り

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蒼井は一向に戻ってこず、そろそろ一時間が過ぎようとしていた。 心配、とかそういうのは無かったが、マジでなにしてんだ?と思ったぐらい。 それでも、水波は探しに行く、なんてことは言わなかったし、むしろ白井と一緒に居たいんだ、と言わんばかりに、ニコニコと色んな話をしていた。 主に、良く分からない植物の話だが。 「それで、秋になれば、彼岸花が咲き始めるだろ?彼岸花は、家に持ち込むと家事に見舞われるっていうけど、花言葉はすっごく切ないんだ」 「へぇー。 でも、彼岸花って良く墓地に咲いてるイメージあんだけど。冥界への道しるべーとか、そんなイメージ」 「まぁ、イメージは人それぞれだけどさ。でも、墓地に咲いているのもちゃんと意味があんの。確か、魔除けーとか、そーゆー意味だった気がする」 白井は勿論と言わんばかりに、あまり話を聞いていなかったが、それでも水波が楽しそうに話すものだから、付き合ってやっていた。 一ヶ月ぶりなのだから、話したいことも沢山あるのだろう。 ほんと、可愛い奴…―― 「秋の花は好きなんだ。彼岸花だって勿論だし、金木犀だってコスモスだって」 「あぁ、コスモスは良いよな。 小さな桜みたいで可愛い」 「えっ」 「なんだよ」 水波があまりにも有り得ないと言わんばかりの声を漏らすので、突っ掛かるように言ってしまう。 それでも、それが当たり前になっているせいか、水波は普通に対応してくる。 「いや…白井でも可愛いとか思う感情があるんだなぁと思って、さ。 ちょっと意外」 そう話しつつも、水波は嬉しそうだった。 恐らく、花に関して一緒に話せる奴がいないからだろう。 お陰で、花に興味がなくとも少しずつ覚えてきた。 「コスモスは秋に桜って書いて秋桜だろ? 綺麗だよな」 「ああっ。コスモスが咲き始めるとな、花見をしたいなって思うんだ。白井が言うように秋の桜だからなっ」 あぁ、本当に、なんでそんなに楽しそうに話すんだ。 可愛いとか、愛おしいとか、思ってしまう。 胸がドキドキしている。 「水波」 「なに?」 「………いや…」 無意識に水波の手に己の手を重ねてしまい、また、キスをしようとしていた。 水波も少しだけ、ドキッとしたような、そんな表情をしていた。 なんでこうも、そんな衝動に駆られるのだ。 「なんでもない」 「そ、そうか…――」
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