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「ごめんねぇ、相当待たせちゃったね」
「あ、蒼井」
突然、そんな申し訳ないという気持ちが何も見えない言葉と共に蒼井は参上した。
苦笑いを浮かべ、腰に手を当て、「はは」と笑っている。
どこか、一緒に居た時よりも髪が乱れているような気がしないでもない。
それに普段腰に手を当てるような奴じゃない。腰が痛いのか?なんて思ってしまう。
「なにしてんだよ」
「いやぁ、それがさぁ。僕、ここに支えてる人に仲が良い野郎が居るんだけど、たまたま会っちゃってさぁ。それでつい、話し込んじゃって」
にこやかに蒼井は話し、水波の言っていた通りになっていたようだった。
適当な相槌を返し、黙々と美味しそうにたい焼きを食べる水波を見、思わず頬をつねってしまう。
すると水波は、「やめろっ」と言わんばかりの目で睨んでくるので離してやれば直ぐに目を逸らし素っ気なかった。
ようやく蒼井が来た今、これからだ。
そう思っていた矢先だった。
「水波様っ」
という一人の声に、その空気は壊された。水波もほのぼのした顔はせず、声の主を見る。
水波の家に支えている家来。
表情を見れば一目瞭然だった。
「我が敷地内に賊が浸入した模様!
まだ町には到達しておりませんが、いつ来るか…――
たっ、直ちに出陣要請を」
家老というのは大変だとつくづく思う。
家老家に生まれた水波は指揮を取らなければならない。
水波に素質があろうと無かろうと、それは絶対だ。だけど、水波は恵まれた事に、指揮官の素質を持ち合わせている。
だからこそ、余計大変になるのである。
「わかった。今行く」
と言えば、家来は他の準備がある為、水波の元を後にする。
「すまないな、白井。
せっかく来てくれたのに」
「仕方ねぇだろ。
そんなことより、俺も出してくれるんだろうな」
「寝言は寝てから言え。
お主は武士の家系ではないのだ。大人しく家へ帰り、家族の身でも案じていろ」
「そうだよ、白井」
いつもこれだ。
家系じゃないから、家系じゃないからって。
「じゃあ戦には連れていってくれ。
怪我をした奴を手当てしてやるから」
「物を頼む態度じゃないな。と、叱ってやりたい気もするが、それは有り難い」
なんだかんだ言って水波は、しっかり者なのだ。だから、水波は家老の家に生まれて正解だった。
それが、どんな未来を迎えても、水波としても本望であることだろう。
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