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そして我が軍に勝利がもたらされた時、水波は帰ってきた。
それは、陽も暮れ、雲行きが怪しくなってきた頃の話で、皆が疲れ果てていた。
その中、水波が数人の兵と共に怪我をして帰ってきた。
白井はそんな水波の元へ直ぐに駆け付ける。
床にへと寝かせられた水波。
一見、大怪我をしているように見える。
大量の血が付着していて、水波の血なのか、返り血なのか分からない程に。
「…白井…勝ったぞ」
それでも、いや、こんなときだからこそ、水波は強気でいる。
水波は腹を斬られていた。
傷を白井は抑え、そんな水波に頷いていやる。
幸いにも傷は浅かった。
「なぁ、白井。
ちゃんと…家に来いよ」
今言うことでもないだろ、と、治療をしながら頷けば、水波はクスクスと笑い出すのだ。
なにがおかしいのか分からない。
「オレは今まで…こんなにも真剣な白井を見たことがないよ」
とだけ言うのだ。
「当たり前だっ。
大切な奴がこんな怪我をしたら、真剣にもなるっ。幸いにも傷は浅い。的確な治療をすれば、俺一人でもなんとかなる」
そういえば、また水波は笑うのだ。
呆れて何も言いはしなかったが、水波の様子は普段よりもおかしかった。
最前線で何を見てきたのかは知らないが、それでも沢山の死人を見てきたことだろう。
水波は優しいから。
きっと、それが原因。
「っはは……絶対にお前の治療は受けたくなかったなぁ」
「馬鹿言え。お前が怪我をしたと聞いたら、誰よりも早くお前の元に行くのは俺だと決まってんだよ」
そんなことを言えば、クス、と水波は笑った。
なんとなくだが、意識が遠退いているのだろう。
「…水波。
疲れただろ。もう、眠れ」
「…うん、ありがとう白井」
水波がこんな傷を負って帰ってくるとは思わなかったが、それでも。
重傷じゃなくて良かったと。
生きていて良かったと白井は安堵した。
血も止まっている。
思わず安堵の溜め息を吐いたくらいだ。
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