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「ちょっと待ってろ、包帯も変えるから脱げ」
「う、うん…わかった」
ずぶ濡れの挙げ句、包帯は濡れ、すげぇ痛いだろうに。
傷が塞がっていない状態で、走ってきたのだろう。包帯が血で赤くなっている。
馬鹿だろ。
無意識に溜め息を吐き、白井は救急箱と包帯を取り、ついでに着ていない着物を取り、水波の元に戻る。
言われた通りに水波は脱いで待っていた。
「つーかさ、安静にしろって言っただろ」
「だってっ!
来いって言ったのに、おまえが来ないからッ」
「なんで安静にしてる奴のとこに行かなきゃなんねぇんだよ。
渡したい物なんて、別に今日じゃなくてもいいだろ」
怒鳴る気力は無く、白井は包帯を外しながら会話をしていた。
包帯を外し終えれば、腹には血が付着していて、傷に思いっきり消毒液が着いている布を当ててやる。
「…ッ……」
「そんな痛そうな顔しても自業自得だからな」
「わかってる」
消毒液がついたままの布で体に着いている血を拭き取り、普通の布を傷口に被せてテープで止め、更にその上から新しい包帯で巻いた。
「しばらく俺の服でも着ていろ」
とだけ言い、白井は着物を渡しその場を後にする。
居間へ行き、温かい茶を作って部屋に戻れば、着替え終わった水波はボーッと外を眺めていた。
雨だけが降っている。
無言で水波に茶を渡せば、「ありがとう」とだけ言い外に再び目を向ける。
「寒いから襖閉めたいんだけど」
「うん」
思ったより素直に頷く為、襖を閉めることに戸惑ったが、襖を閉めて水波を見た。
水波はボーッとしている。
なにを考えてるのかわからない。
湯飲みを持ったまま。
「おい」
「…なに?」
「なにじゃねぇだろ。
俺にくれるんだろ?早く寄越せよ」
そう言えば、思い出したように水波は脱ぎ捨てた着物の下敷きになっていた物を取り無言で渡してきた。
それは、
白井が渡したお守りと同じで、
でも柄が桜ではなく、菊であった。
「…やる。
まさか白井が同じのを渡してくるとは思わなかった。でも、…お前の為に買った物だったから」
同じお守り……―――
同じことを考えてたのか。
「お、おう。
まさかとは思うんだけど、願い事は俺が戦に出ても帰ってきますように、…とか?」
「……オレに言わすな、バカ…」
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