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頬を染めることもなく、恥ずかしそうでもなく、ただそう水波は言葉を口にした。
可愛いげが無い。
多分今、水波は全く別のことを考えている。
同じものを買い、同じことを考えてた。
そんなことで、一瞬でも嬉しいとか、そんな風に思った自分が居たが、上の空の水波を見ればそんな感情は消え失せた。
「…おまえさ、戦場でなに見てきた訳?」
「……なにも」
「なにもじゃねぇだろ。
てめぇ見てりゃあ分かんだよ。明らかに上の空でさ」
「…言っても……白井には分からないよ」
人が心配して聞いてみればこれだ。
カッチーンと来る。
「はぁ?分かんねぇかもしんねぇけど、こっちゃあ水波を心配して聞いてやってんのにその態度はねぇだろ」
「心配しろとオレがいつおまえに言った」
あはは、流石にブン殴りてぇ。
でも一応安静にしてなきゃなんねぇ奴殴る訳にも行かねぇし。
うぜぇー。
それにしても、本当。
死人かよ。
「ごめん、白井」
「……いきなりなんだよ」
「なんか、さ……オレ今、すげぇウザいよね」
自覚症状アリって奴。
情緒不安定って感じがするし、精神的にかなり来てる。
泣き言でも愚痴でも何でも良いから言えばいいのに。
「んで?なにがあったんだよ」
「…沢山人を斬ったんだ。
沢山目の前で人が死ぬんだ」
「それで?」
「人を斬った感触が全部、刀から手に伝わって、段々気持ち悪くなって、…いつかオレも……そうなんのかなって思うと」
「考えすぎだろ」
「でもッ…」
確かに白井には分からない気持ちではある。
白井は1度も人を斬ったことがない。
だけど、これだけは言える。
「水波がどんな重傷を負っても絶対に俺が治す。だから、安心して行ってくればいい」
「…なんでそう、自信満々で言えるんだよ。
怖いんだっ、オレは腹を斬られたとき、死ぬのかと思った」
「だけど俺が今こうして手当てしてやった。おまえは生きてる。それでいいだろ。
絶対に俺が治すから。俺を信じろ、水波」
「………」
水波はそれでも強い。
柔い神経はしてない。
それでも、積み重なって今みたいになる時がある。
その度に励ましてるのは、いつも俺。
「ありがとう…。
簡単にそうだよねとは言えないけど、白井なら信じれるし、なんだかんだいって……いつも励ましてもらってる」
そう直球に言われれば、白井も恥ずかしさを覚えるが、それを顔に出すことはなかった。
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