記憶

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「白井お兄ちゃんっ」 「おぉ、七瀬」 廊下をパタパタと可愛らしく振り袖を揺らしながら走ってくるのは、水波の6つしたの妹。 名を七瀬と言う。 七瀬はニコニコと笑顔を浮かべ、白井と水波の間に無理矢理座る。 「む、これお兄ちゃんの大好きなたい焼きでしょー?白井お兄ちゃん、七瀬のは無いの?」 沢山甘やかされて育っている七瀬は、箱入り娘のような存在であり、可愛らしい娘なのだが、世を知らないのはたまにキズである。 白井は七瀬の頭を優しく撫で微笑んでやる。 「七瀬のもちゃんと用意してあるぜ」 「ほんと!?」 それでもつい甘やかしてしまうのは、水波と違い素直で可愛いからだろうか。 顔は水波そっくりだというのに。 懐に入れておいた、小さな紙で出来た箱を七瀬に渡せば、七瀬はドキドキと胸を高鳴らせながら、その箱を開いた。 「簪っ」 箱の中にあるのは、ベークライトという素材で作られた桜花をモチーフにした簪。春というのもあり、可愛らしい七瀬には桜花が似合う気がしたのだ。 「おい白井、この簪、相当値段が着いてるんじゃ」 その簪を見た水波は、申し訳なさそうに言えば白井は鼻で笑う。 「水波の妹なんだ。これぐらいの物でもやんなきゃ逆に申し訳ねぇ。それに、こんな骨董品でも安く売ってる場所があんだぜ?」 それを聴いた蒼井が隣でクスクス笑っているので、白井が睨んでやれば、やれやれ、と言わんばかりの表情を浮かべた。 七瀬は嬉しそうに今着けている簪を外し、桜花の簪を着けた。 「どう?白井お兄ちゃん、似合う?」 「ああ、とっても似合ってる。 っはは、七瀬は美人になるぞー?」 七瀬はまだ17歳という若い歳。 いや、23歳の俺が言うのもあれだが、若いと思う。 「七瀬はぁ、白井お兄ちゃんのお嫁さんになるのー!だからね!七瀬白井お兄ちゃんの為に美人になるっ」 美人ってなろうと思えばなれるものなのか? ていうか、17にもなって、何故こんなにも幼いのだろう。 「ちょ、七瀬っ」 立派なプロポーズをした七瀬に、水波は焦ったような表情を浮かべた。 まあ確かに、こんなことを屋敷の家来にでも聴かれれば人溜まりもないことだろう。 「七瀬には婚約者がいるだろ? だから残念。俺とは結婚出来ねぇなぁ」 七瀬と結婚したら億万長者になれっかなぁとか考えてしまう自分は、根っから腐っていることだろう。
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