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「はぁ~……」
ジンジンとする頬を未だに手で撫でながら、白井は溜め息を吐いた。
水波の家を後にし、今は蒼井と市場を歩いていた。
蒼井はそんな白井を見てクスクスと笑っている。
「元はと言えば、蒼井が俺に心に決めた相手が居るなんて言うから、こうなったんだ」
愚痴るように白井が言えば、蒼井は「ごめんごめん」と、全く心にも思っていない謝罪をしてくる。
蒼井はそのまま白井から離れたかと思いきや、たい焼きを買ってニコニコと戻ってくる。
そして、たい焼きを白井にへと手渡す。
「……俺は水波じゃねぇ」
こんなにも甘いたい焼きは嫌いだ。
餡が沢山詰まっていて、何が良いのか全くもって分からない。
「白井もさ、素直になればいいのに」
「なんの話だよ」
苛立ちを覚える。
蒼井のこういった言動はいつものことだが、今回ばかりは腹が立つ。
それに、
アイツにキスなんてしてしまったのだ。
「好きなら好きって、どうして言えないのかねぇ。このたい焼きだって、嫌いだ嫌いだ言いながらも、水波の為に毎日買ってあげて」
「…………」
「好きなんだろ?水波のこと」
少しだけ沈黙が流れる。
市場にいる人達のザワザワしさだけが残り、白井は口を開く。
「阿呆くせぇ。んなわけあっかよ。誰があんな奴」
と。
言葉を発し、白井は蒼井を睨んだ。
「七瀬様にあげた簪だって、水波の言うよう高い奴なんだろうし、あんな嘘ばればれの見栄張ってさ」
「うっせぇ、黙れ」
人を見透かしたように蒼井は淡々と話す。
蒼井に何が分かるというのだ。
水波とは幼馴染み。
ただの幼馴染みなのだ。
それは蒼井も同じこと。
それなのに、この俺が水波の馬鹿を好き?ふざけるな。
そんなわけあるか。
そんなことあってたまるものか。
「はぁ…似た者同士だよね、白井と水波は」
「あぁ?どこがだよ」
苛立ちを隠しきれず喧嘩腰で蒼井に聞けば、蒼井はクスクスと再び笑う。
なにがおかしいのだ。
「お互いに素直じゃないことかな。
っふふ、それじゃあ僕は山積みの仕事があるから。
またね、白井」
気づけば、蒼井の屋敷の前まで来ていたようだった。
蒼井はひらひらと手を振り、屋敷の門を潜っていった。
白井は舌打ちをし、家路に向かう。
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