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ベッドの移動は言われた通りだったけれど、それはきっと、急を要さない体調の患者を奥に詰め、こまめなチェックが必要な新しい患者を入り口付近に配置するという、病院側の思惑だろう。
多分、朝になったら別の患者が、俺が昨日の昼前までいたベッドに入ってくる。そのために俺は移動させられたのだろう。
奥のベッドにいた入院患者なら、そういう習慣がこの病院にあることを知っていてもおかしくはない。
しかし、何であの男は退院間際にあんなことを告げていったんだろうか。
もしかして、隣にいる俺の生活音がうるさかったとか、そういう理由か? でも、大部屋なんだからそういうのはお互いさまだし、
耐えがたいくらいなら、一言言ってくれれば気をつけた。いびきとか、言っても仕方のないことの場合は…いや、それならここは四人部屋だから、他の人からも文句の一つくらい出ているだろう。
単純に俺のことが気に食わなくて、寝付けなくなるよう、ささやかな嫌がらせをしていったんだろうな。
そんなことをぼんやりと考えていた時だった。
ふいに、足元の空気が動いた。
部屋の扉が開く音はしなかったし、カーテンが開いた様子もない。でも確かに、何かが俺のいる一角に入って来た。そう感じた。
本能的に寝たふりをすると、ベッドの下に何かが潜り込む気配が伝わった。
ずる、ずる…ごく微かに、何かが這うような、あるいは床をこすり回すような音が聞こえてくる。
それがようやく止んだと思った瞬間、凄まじい衝撃が俺の全身を突き上げた。
どだだだどだだだだだだだどだだだだだだだだだだだだだだだだだ
ベッドの下で何かが暴れている。その衝撃が真下から俺を揺さぶり突き上げる。
叫びそうになったが、必死で喉を押さえ、声を潰した。その間も奇怪で激しい音と衝撃は、ベッド上の俺を翻弄し続ける。
どどどどだどどどどどどどだだどどだだだだどどどどだだだどどど…
騒音と揺れがぴたりと収まった。
耳が痛む程の静寂が室内に満ちる。その静けさの中にまたあの、ずる、ずる…という微かな音が上がった。
ベッドの下から何かが出てくる。空気だけを揺らして、カーテンや扉を開けることもなく部屋から去って行く。
その気配が完全に消えるのと、俺の意識がなくなるのはほぼ同時だった。
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