第1章

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何かに突き動かされるように、テキパキと買い物を終えて歩いていると、あっちゃんの顔が脳裏に浮かんだ。 今日は8時に会うことになっている。…今私がしているのは裏切り? このことをあっちゃんに胸を張って言える? 足が止まって胸が苦しくなった。 言えないに決まっている。だけど…具合の悪い高村くんを放っておけない。私は彼を助ける。 あっちゃんを裏切ることになっても高村くんに会いに行く。 そう心が決まって再び前を向いて歩き始めた。 スーパーから十分くらい歩いたところにある五階建てのクリーム色のマンション。築五年くらいかな? 何度も確認したけど住所はここだ。 バイトで家賃を払うって言ってたから、隣の音が聞こえるような安アパートだと思ってた。目の前には鉄筋のしっかりしたマンション。 バイトで家賃を払っていけるのかちょっと心配になる。 2階の203が高村くんの家だ。マンションの玄関はオートロックになっている。セキュリティもしっかりしていてどう考えても高そう。 自動ドアから入り、ドキドキしながら203と呼び出しキーを押して待った。 出てくれるかどうかわからない。 力になると約束したことだけを考えてここに来た。 出てくれなかったらそのまま家に帰ればいい。 不安とともに、鞄と一緒に持つ買い物袋が手に食い込んで痛くなる。その痛みがまた不安をあおってくる。 しばらく待っても応答がなく、もう一度押してみた。 反応がない。 寝てるのかな… 病院にいってるのかもしれない。 仕方ない。行くことを伝えてないし、約束してないんだから… こんなことならメールしておけばよかった。
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