第1章

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諦めて帰りかけたとき、 『はい。』 だるそうな声がインターホンから聞こえた。 「浅井です。」 『何で…?』 「あのっ…力になるって約束したから…」 ふっと力なく笑う高村くん。その笑いが呆れてなのか何なのか良くわからない。 『…上がってきて。 鍵開けとくから。』 その言葉とともにオートロックのドアが観音開きに開いて、胸がますます早打ちを始める。掌に汗がにじむ。 恐る恐るドアを抜けて入って行くと、目の前にエレベーター。一階に止まっていてボタンを押すとすぐにドアが開いた。乗り込むとあっという間に2階のフロアだ。心の準備が出来ないまま荷物の重みも忘れて部屋番号を見ながら廊下を歩く。突き当たりから三つ手前の家の表札に203とだけ書いてある。 ドアの前で浮き足だった気持ちを落ち着かせるために深呼吸を一つしていよいよ家に入る。 ドアノブを持つ手が少し震えている。 ゆっくり開けて中に入った。 玄関には胸くらいの高さの靴箱。その上には古ぼけた手作りと思われる熊の縫いぐるみが置いてある。 これはきっとお母さんとの思い出の品… 前の家でお父さんの彼女に捨てられかけていたんだ。高村くんに救われて、ここで優しく彼を迎えてくれてるんだ。 高村くんの気持ちを考え胸がきゅーんと締め付けられた。
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