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裕福な商人の息子として生を受けた私が、あの人と出会ったのは、十二歳のころ。 名をはせている商人とは思えないほどに一見おっとりとした父の、友人として紹介された東風という人は、父以上に謎の人物だった。 父は艶やかな黒髪に、光加減で赤く見える薄い茶色の瞳の持ち主で、私は父譲りの黒髪。 母も黒に近い濃い茶色の髪で妹は黒髪と、私の周囲は黒髪の人が多かったから、まずその色彩の薄さに驚いた。 銀と見まごうほどに薄い金色の髪は短く刈り込まれていて、肌の色も薄くて、その瞳は水や氷を連想させる淡い青色。父は標準くらいの背格好で、その父よりも少しだけ背が高くて少しだけ筋肉質な身体つき。 だからと言って何か特徴的なところがあるわけではない。 色彩以外はごく普通の人に見受けられた。 旅人、というよりは風来坊というような雰囲気。 旅の途中に立ち寄ったとは言っていたけれど、初めて家の庭であった時はどう見ても手ぶらの状態だった。 いや、よく見たら小さな雑嚢を一つ、マントの影でその背に背負っていたけれど、それでも旅人というほどに装備を持ってはいなかった。 光あふれる春の昼下がり、その人はふらりとやってきた。
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