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伝聞なのは私が直に知っているわけではないからだ。 もう、十年も前の砂漠へ続く国境地帯での紛争で鬱金は戦死し、その集団は散り散りになった。 今となっては伝説のような存在だ。 東風と父はそこで知り合ったらしい。 『風』のつくその名の通り、誰よりも機動力を発揮して神出鬼没を誇り、先鋒を任されていたと聞いた。 剣よりは鞭を使った戦いを好んでいたというが、命をとる戦いを覚えたのは鬱金の下についてからだと笑っていた。 その手を血に染めたのは鬱金のためだというのに、だからこそなのか鬱金に心酔し、鬱金のために身を粉にして勤めていたという。 鬱金の死後はそのまま行方をくらましてしまうのではないかと案じられるほどだったと、そう、父が語っていた。
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