1 嵐は前触れもなく突然に。

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設計部にいる俺は今日もパソコンを睨みながら今、抱えている物件を慎重に仕上げていく。 俺は物が出来上がっていくのが堪らなく好きだ。 子供の頃からブロック遊びにしてもパズルにしても粘土にしても。 何かが出来上がる行程にいつもワクワクしていた。 ただ俺はいつだって慎重になりすぎる傾向があって、俺がやっとの事で完成させると 大抵、周りの友達は別の事をして遊びだしていた。 結局、俺って何かにつけて出遅れるタイプなんだよな。 だから桜川の事だって…… ってダメだろ。  往生際が悪いな…… 「まだ有の事忘れられないの?」 いきなり痛いとこをついてくるこの女、 今里 千夏(いまざと ちか)は桜川と同じく俺の同期だ。 歳も同じ25歳。 しかも同じ設計部。 桜川が縁の下の力持ちなら今里は人が持ち上げたところをヒョイヒョイ渡っていくタイプだろう。 つまりーーー 要領がいいのだ。 その上やたらと鋭い。 俺が桜川への気持ちをひた隠しにしていたのに入社して直ぐの頃 「ねえ、有の事、好きなんでしょ?」 って聞いてきた。 図星の俺はその場で固まった記憶がある。 まっ、そんな今里だから今の俺の心境なんて手に取る様に解るのだろう。
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