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食事を終えて、別々の部屋の片付けを再開する。
一人になった私は、また手帳を開いた。
日付とたった一行の記録をなぞれば、呆気ないほど簡単にあの頃の喜びと痛みが蘇る。
心が、体が、覚えてる。
背中から抱き締められて一緒に眠った温もりも。
ドライブした海の輝きも。
喧嘩して泣いたあの日も。
耳元で囁かれた、滅多に聞けない「愛してる」も。
ピリオドを打った日の彼の苦しげな横顔も。
本体とカバーの隙間にたくさん挟まれた紙を取り出した。
一緒に行った映画のチケットの半券。
旅行に出掛けて、私に買ってきてくれた絵葉書。
付き合い始めた頃にたった一通だけくれた、希望と愛情に溢れたルーズリーフの手紙。
一通り目を通して、丁寧にたたんで、またカバーの隙間に押し込んだ。
最後の「ばかやろうっ!!」は黒い文字。
それから先は滔々と、苦しい片想いの呟きが綴られている。
涙が溢れる。
手帳を開けば鮮やかに、原色の記憶が戻ってきてしまうから。
それは、これからの私に必要なものじゃない。
あなたと過ごした日々は、今よりも遠いところで朧気に残っていればいい。
今の私を形成したあなたは、間違いなく私の一部。
あなたを愛したことも、今でもあなたを好きなことにも変わりはない。
けれど、これからの私が幸せにしてあげたいのは、あなたじゃなくて遼ちゃんなんだ。
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