断捨離~あの頃の私へ~

13/13
前へ
/15ページ
次へ
一冊ずつ、丁寧に紙袋にいれる。 今までなかなか思い切れなかったけれど、きっとそうすることで、やっと私は苦しかった恋を手離せる。 やっとあなたを思い出の中に帰せる。 夕焼けが赤く部屋に差し込んできた。 遼ちゃんが処分するものを一ヶ所に纏め……手を止めた。 「……なあ、この紙袋、捨てていいの?」 振り返り、何でもない風に言う。 「うん、もうかなり前のだから」 「そっか……」 赤い目の私をひととき眺め、遼ちゃんが神妙な顔をした。 「……無理、しなくてもいいよ?」 遼ちゃん、ありがとう。 遼ちゃんがいてくれるから、私は笑えるの。 笑顔で答える。 「ううん、本当にもういいの」 遼ちゃんがほっとした顔で私の頭を抱き寄せた。 「解った」 大切な恋だった。 でもね。 遼ちゃんと歩んでいくこれからを何より大事にしたいから。 心の中の手帳にたくさんの赤い文字を綴っていきたいから。 ……私を占領する青い文字を削除するね。 遼ちゃんの肩口で大きく息を吸い込んだ。 彼の体温、匂い、呼吸の度に微かに揺れる胸。 ここが今の私が居たい場所なんだ。 形は消えても、文字は消えても、あなたを懸命に愛したあの頃を生涯忘れない。 思いの残る手帳を処分することで、私を今なお捉えてしまうあなたを断って、面影を捨てて、過去から離れるよ。 大好きだった笑顔と 大好きだったという事実だけを セピア色の中に残して。                           ~ Fin ~
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加