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一冊ずつ、丁寧に紙袋にいれる。
今までなかなか思い切れなかったけれど、きっとそうすることで、やっと私は苦しかった恋を手離せる。
やっとあなたを思い出の中に帰せる。
夕焼けが赤く部屋に差し込んできた。
遼ちゃんが処分するものを一ヶ所に纏め……手を止めた。
「……なあ、この紙袋、捨てていいの?」
振り返り、何でもない風に言う。
「うん、もうかなり前のだから」
「そっか……」
赤い目の私をひととき眺め、遼ちゃんが神妙な顔をした。
「……無理、しなくてもいいよ?」
遼ちゃん、ありがとう。
遼ちゃんがいてくれるから、私は笑えるの。
笑顔で答える。
「ううん、本当にもういいの」
遼ちゃんがほっとした顔で私の頭を抱き寄せた。
「解った」
大切な恋だった。
でもね。
遼ちゃんと歩んでいくこれからを何より大事にしたいから。
心の中の手帳にたくさんの赤い文字を綴っていきたいから。
……私を占領する青い文字を削除するね。
遼ちゃんの肩口で大きく息を吸い込んだ。
彼の体温、匂い、呼吸の度に微かに揺れる胸。
ここが今の私が居たい場所なんだ。
形は消えても、文字は消えても、あなたを懸命に愛したあの頃を生涯忘れない。
思いの残る手帳を処分することで、私を今なお捉えてしまうあなたを断って、面影を捨てて、過去から離れるよ。
大好きだった笑顔と
大好きだったという事実だけを
セピア色の中に残して。
~ Fin ~
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