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「あー、もうこんな時間じゃん、腹も減るはずだわ。
俺、弁当買ってくるわ、作るの面倒だろ?」
雑誌をより分ける私の背中に彼が声をかける。
「何弁がいい?」
「んー、じゃあ唐揚げ」
「おっけ」
彼が財布をつかみ、玄関へ向かう音がする。
「脱線すんなよ?」
「はいはい」
小さく生返事をしてから振り返った。
「ありがとね、いってらっしゃい」
「行ってきます」
パタンとドアが軽い音を立てて閉まった。
私は本棚にまた目を移す。
彼がいるときは何となく取り出せないと、手を着けなかった単行本に手を伸ばした。
彼が絶対に興味を持たないであろう、中学高校にかけてはまりまくった少女小説のシリーズ。
今では絶版だと思うから、処分できなかったのだ。
その奥、二列目にそれらは整然と並んでいた。
私の過去を知る、スケジュール帳だ。
その数12冊。
使いやすさが気に入って、色こそ違えど毎年同じシリーズを買った。
その年の私の気持ちを表すような表紙の色に苦笑する。
今はスマホでスケジュール管理をするから、手帳を買うことはなくなった。
日々の記録も全部スマホ。
それを考えると、自分で文字を書き記していたあの頃の記録は、なんだかもっと濃い血が通っていたように思う。
手前の少女小説を処分する方の山に積むと、私はそっと、その手帳を手に取った。
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