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彼が登場して賑やかだった手帳の右隅は、三冊目に入る頃には空欄が目立つようになった。
3/16 彼の想いが見えない
3/25 いつもと変わらないみたいだけど
心が遠く感じる
4/19 私は振られてしまうかもしれない
胸が軋む。
あの日の私がもがき苦しんでいる。
交際3年目に入って暫くしてから、私たちの関係は少しずつずれ始めた。
彼に依存し、彼の思い通りに動く私と。
私を次第に重く感じ、私があまりにも従順なことが窮屈に思えた彼。
電話もメールも会うことさえも間隔が空いた。
『ごめん、会社の同僚と出掛ける』
それが嘘だと気付いていても、彼を信じたかった。
私の指定席だったはずの助手席に、別の女の子が座っている状況に出くわしても、深い意味はないと不安をねじ伏せた。
……本当は泣き明かすくらいに不安だったくせに。
たまに会っても何も言い出せない。
会話の隅に違和感を感じても何も問いただせない。
そのもどかしさをぶつけるように、手帳にはまた文字が増えていった。
嬉しいことは赤い文字。
悲しいことは青い文字。
ページの右隅の色は次第に青くなって。
そしてその日が訪れた……。
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