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ガチャッと、勢いよくドアが開く。
「ただいまー。遅くなった。
あー。腹減った。
唐揚げ揚げたてだから、先に食おうぜ。
一旦手を置けよ」
矢継ぎ早に言いながら車のキーをテーブルに置き、お弁当をビニール袋から取り出すがさがさという音が私のいる部屋まで届く。
「おかえり、ありがとう」
手帳を閉じて棚に戻し、残しておく本で隠した。
切なさが私を過去に引きずり込んで、ご飯なんか食べられそうにないけれど。
それでものろのろと立ち上がった。
テーブルにはお弁当がすでに並べられていて、ペットボトルのお茶も用意されていた。
「……準備万端だね」
「湯を沸かすのも面倒くさい。今日は楽しようよ」
彼が割り箸を割る。
「いただきます」
早速お弁当をかきこむ彼の顔をじっと見つめた。
長い長い、青の時間。
そこから救いだしてくれたのはこの人だった。
「遼ちゃん」
「んー?」
唐揚げをモゴモゴしながら視線を寄越す彼に、涙が出そうになるほど安心する。
あの日苦しんだ文字とは違う、今そばにある暖かさを幸せに思って、自然に言葉が溢れた。
「大好き」
ゴクンとすべてを飲み込んで、彼は私が大好きな笑顔を見せた。
「俺も大好きだよ」
『好きって何度も言うと意味が薄れる気がする。
だから俺は言わないよ』
そう言って、極たまにしか言葉に表してくれなかった山野くんと違って、遼ちゃんは何度だって私に言葉をくれる。
私を幸せな赤に染めてくれる、大切な大切な人だ。
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