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「坂崎、そろそろさぁ、お互い名字呼びやめねぇ?」
急に皆川がそんな事を言ってきた。
「な、オレのこと名前で呼べよ。んで、オレもオマエのこと名前で呼ぶ。あ~、でも、もし呼びづらかったら…そだな「あ~たん」とかでもいいぞ?」
なぜ名前を呼びづらいからと、よりハードルの高い愛称を呼ばなければいけないのかわからない。
「あさひだから『あ~ぴ』とかでもいいかな~。」
さらにハードルが上がって行く。
「愛称などというものは、名前呼びから発展して自然にたどり着くものだろう。皆川が俺を名前で呼びたいなら好きに呼べばいい。」
「………。」
皆川がニコニコ何かを考えている。
きっとロクなことじゃないだろう。
「ん~、ま、そだけど、今までどんな愛称で呼ばれてた?名前にちゃんづけとか?」
「愛称などない。」
事実だ。
「え?いや、何かあるだろう。」
「ない。名前を呼びたければ呼べばいい。愛称を呼びたければ、皆川がつければいい。」
ちょっと戸惑ったような、ニコニコ顔でこちらをみている。
「えーっと、そしたら幸之助?」
「………………………………………何だそれは。」
「アル………あ、愛称?」
「ほう…?」
「……。」
「皆川は他の男の名で俺を呼びたいのか?」
「いやっっ。そう言うわけじゃ。」
誤摩化すように目をそらしている。
「皆川が言い出したんだ。名前呼びしたいんだろ?呼んでいいぞ。」
「う…。」
「呼べ。好きなだけ呼べ。」
「あー…明日から名前で呼ぼっかな。」
「いや、構わない。名前で呼びたいなら今呼べ。すぐ呼べ。」
「いやっっっ、坂崎は坂崎だよな!そのほうがしっくり来るっつーか。」
「知らないんだろう?」
「ぅぃえっっ?そんなわけ無いだろう。愛しの坂崎の名前を知らないなんてー。」
しらじらしい。
「なら呼んでくれ。」
「うっ、ごめんなさい!」
元々名前なんか呼ばれたことはほとんどない。
ましてや同じクラスになったことの無い皆川が知らなくても当然かもしれない。
しおしおと下げられた頭を軽くポンポンと叩く。
「理一だ。」
「リーチ?」
「ああ。そうだ。」
「へー。リーチか!なんかオシャレなあだ名だな!」
満面の笑みを浮かべている。
違う。違うぞ皆川。
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