あふれたコップと表面張力

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◇ 皆川は何も悪くない。 なのに俺は皆川を汚した。 歩道橋に縛り付けて服を剥いて写真を撮った。 自分の行動の理由を整理できていなかった。 でも、この暴挙の動機が妹にある。そう思わせておけば皆川が妹に近づかなくなるかもしれない。 それだけははっきり認識していた。 馬鹿な事をした。 皆川を傷つけた結果、さらに喪失感が増しただけだった。 あんな事をしでかしたのだから、避けられてあたり前だとわかっているのに、見捨てられたような気分になる。 見捨てられたなんて図々しい。 そもそも、ここしばらくは話もしていなかった。 けれど、俺の汚れた水はまだこぼれ続けていた。 そのあとも、予備教室で、公園のトイレで、俺は皆川を傷つけるのを止められない。 追いつめられたような皆川の顔なんて、本当は見たくなかった。 もう、謝りたかった。 謝っても許してもらえないのはわかっている。 なのに、皆川が俺を気にするのに、小さな喜びも感じていた。 俺は汚い。俺は卑怯だ。 ◇ きれいな水ほどこぼれにくい。 皆川はきれいな水だ。 きれいな水だから、こぼれてもきれいなまま。 すぐに乾いて跡も残らない。 体育館倉庫でまた身体に触れた。 あのとき皆川の水はこぼれたのか。 謝るつもりだった。 なのに、流されるままに身体を摺り合わせた。 謝罪もせずむさぼって、なのに不思議と許されているような気分がした。 俺が汚れた小さなコップなら皆川は大きなプール。 俺の汚れなんか、大きなプールにこぼせばすぐに薄まっていくようだ。 溺れて、溺れて、皆川の腕の中で俺の汚れが洗い流されていく。 だからといって、俺が皆川を傷つけ汚した事実は変わらない。 許されたなんて気のせいだ。 許されない。許さなくていい。 ただ、謝りたい。 その機会だけ与えてほしい。
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