あふれたコップと表面張力

4/7
169人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
◇ 求められると拒めない。 謝るつもりでいたのに。 自宅で何度もキスをされる。 なんで俺なんかに? 皆川がどういうつもりなのかわからない。 どうしていいかわからない。 仕返しなのか? でも、俺には皆川のキスは甘すぎて、全く罰にはならない。 いや、罰はすぐに与えられた。 遅い時間まで帰って来ないはずの妹が予定外に早く帰ってきた。 すぐに皆川を帰そうとする。 でも、姑息な俺の悪あがきは失敗に終わる。 目の前で皆川と妹が話している。 見たくない。 母親も戻ってきた。 母親と、妹と、皆川。 この家に俺はいない。 この世界に俺を必要する人はいない。 ◇ 次の日、皆川の家へ連れて行かれた。 ここで愛され育ったから、皆川はあんなにも明るく輝いているのか。 どんなものでも受け入れる懐の広さがある。 この家は俺に優しい。 その事が俺を苛(さいな)む。 俺に優しくされる価値はない。 手の届かない優しい世界を見せつけられた気分さえする。 渇望が生まれる。 あきらめを覚える。 俺の家と皆川の家の対比は俺を打ちのめした。 すぎた優しさを与えられては、欲張りになってしまう。 これ以上皆川のそばにはいられない。 公園で謝罪した。 これでもう終わり。 許してもらう必要はない。 皆川が俺へ怒りを向ける。 ほっとした。 憎んで蔑んで忘れてほしい。 しかし、そうはならなかった。 謝罪を態度で示せ。そういう事だ。 言う事をきくようにと条件を出された。 まだ、皆川の側のそばにいられる。 そう思ってしまった俺は、浅ましい。 ついさっき、そばにはいられないと痛感したのに。 まだ、皆川の懐の広さにすがるつもりか? どんな酷い命令をされたとしても、見捨てられるより辛い罰にはならない。 浅ましい。 浅ましい。 俺は皆川の目に逆らえない。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!