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ソラは眉根をよせ、女を凝視する。
「あの人はな、あの山から逃げて生きていた唯一の人だ。だから嫌がる」
酒場の客の一人の言葉にジェミニは彼女へ不躾なことをしたと、すぐに謝りたかった。
しかし、女はあちらこちらへ飛び歩いて謝る隙もなかった。
横ではソラがちびちびと水を飲んでいる。その顔は涼やかで、腹立ちまぎれにジェミニは軽くソラの足を蹴った。
「なんだ?」
「別に」
乱暴にリンゴ酒のグラスを掴み、飛び散るのも構わず一気に飲み込む。グラスの向こうでソラが見開いていた。
「一気飲みは」
「分かってる。だけど。あ、おかみさんおかわり」
気の高ぶりが静まらないのは、"幻の花"へ向かう道中のまだ見ぬ恐怖か、はたまた、ソラの態度か。ジェミニは自分のことであるにも関わらず、訳がわからなくなった。
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