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白い封筒には確かに七白華と綺麗な字で書かれていたが住所などは記されていなかった。昼間に誰かが訪れていたのだろうか。差出人はなく、首を傾げるしかない。
手紙を渡してくれた隣の住人は用が済んだとばかりに部屋へ戻っていった。もう少し話したかった気もするが、お風呂が沸いた音を耳にして大人しく一人きりの部屋に戻った。
その日は夕食をとる気力もなくて、静かに雨の降り続ける夜を眠ることにした。こうして落ち着くと、一日の間で起きた出来事が濃密すぎて思い出し切れない。せっかくコスモス畑も唄淵の景色も素晴らしいものだったのに、壮絶に続いたことのせいで霞んでしまったようだ。来年のコスモスが楽しみだと思っていたのに、今はあの社にさえ行かなければと後悔しかない。
「唄を、返して…か」
あの女の言っていた言葉がどうしても引っかかる。なぜ、私なのだろうか。
唄というと出先で見つけたあの童歌しか思いつかないが、あの女と何が関係してるのか。
しばらく考えてみても分かるわけもなく、知らずのうちに深い眠りへと落ちて行った。
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