雪乃 八重

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どうやら、その男性の一族はかなり昔からある庄屋だったと。しかし、何をしたのかは不明だが呪いの類を掛けられていることが分かった。だが、その男が言うにはこの十何年かの間に被害が大きくなっているとのことで、一族の構成図には亡くなったことを意味して記されていた名前が消されており、その人数は確かに異常なほど多い。 生まれて間もなく亡くなった男の子、若くして命を絶った養子、中には5回も結婚して居るのに迎えた婿全員が亡くなっている女の記録も残されていた。ここまでくると呪いだなんだと騒ぐだけではなく、噂も実しやかなものであって『あの一族に近づくと呪い殺される』なんてことも言われているそうだ。 人を呪わば穴二つ、きっとこれは先祖がしたことへの業であり一族が滅ぼされるような程のことを仕出かした、ということしか八重には思いつかなかった。 とにもかくにも、依頼されたからには仕事はしないといけない。几帳面な先祖だったらしく色々な書物を残していたそうで、行われた儀式や祈祷からどんな呪いの類かを読み解いた。記録の量は膨大ではあったが可能性の高いものを絞っていくと、ある屋敷に隠された祭事のことにたどり着いた。 先に述べた通り依頼主の一族の家系は長い。となると、その者達が関わりを持つような相手の一族もまた同様であった。 「ここだな」 車で移動すること一時間ほど。運転席でぼそりと呟いた上司は車を停める場所を探してかブレーキを踏んだ。 目の前には屋敷と称するに相応しい古い日本家屋が佇んでいた。その屋敷を守るように長く横へ続く塀は一体どこまであるのかわからない。まじまじと眺めている私を気にした様子もなく、上司は邪魔にならないように開けた場所へ車を停めると凝り固まったのだろうか、大きく背伸びをしてホルダーに置いていた甘ったるいコーヒーの残りを飲み干す。 「さて、行きますか」 私に向けてなのか、それとも自身に向けてなのか分からない物言いで車を降りた。私が用意をする合間、きりっとしたスーツの胸元から煙草を取り出し一服する上司の視線は目的の屋敷に向けられている。何を思っているのか読めない表情を向けて、すぅと紫煙を吹きかける。車内でガラス越しに見るより物々しい雰囲気が漂うそこに、胸がざわざわと騒ぎ立った。
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