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夢というのは、いつまでも夢であった方がうまくいく。
そう思うようになったのは何時からだろう。
好きで始めたはずの小説家という夢は、覚めると冷たい現実だったなんて、そんなありきたりなことは言いたくなかったはずなのに。今、ここにいる私は少なくとも憧れと夢を抱いていた頃の少女ではない。スランプに落ち込み、思うように言葉を選べず。ただシナリオを練っては捨てて、生きていくためにバイトで何とかしての毎日だ。今更どこかの会社に就職して一から仕事を覚えていくなどと、人付き合いの苦手な私には今の生活をするよりも過酷だといえる。
とは言っても、スランプだから書かないというわけにもいかず、ひたすらネタ探しに翻弄している。今日だって、久しぶりにバイトの休みを二日もらったから、何かヒントになるものはないだろうかと自宅から少し離れた村へ来たのだ。観光地にもなっているその場所は穏やかで、綺麗な景色が広がっていた。
ここなら創作意欲を沸かせてくれる何かがありそうだと、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
「こんにちはー…」
まずはパンフレットとかあればいいなー、くらいの気持ちで駅の窓口から声を掛けてみる。ホームのなかを見ても、湿気でうな垂れてしまった何年も前の講演会のチラシしか残っていなかった。
仕方ない、何度呼んでみても出てこない駅員を諦めて外に出る。見かけた人に聞き込むしか方法が思い当たらず、とりあえず行くしかないかと足を進めた。
とはいえ田舎というより、廃村なんじゃないかと思うくらい誰もいない。何件か家を訪ねてみたが、どの家も反応がなかった。
「おーい」
これは、来るところを間違っただろうかと困っていた時だ。かなり歩いてきた道の方から男の人の声が聞こえた。振り返ると、帽子を深くかぶった若い男性が手を上げて呼んでいる。誰のことを呼んでるんだろう、そう思ってきょろきょろすると笑いながら君のことだよ、って駆け寄ってきた。
「何してるんだ?こんなところで」
日焼けした腕を腰において首を傾げられる。同い年くらいのその男は、帽子を脱いで髪を掻き上げたり走ってきたせいか流れる汗を拭いたりと忙しない。
「あの、ここに唄淵という村があると聞いて…観光に」
観光という嘘でも本当でもない口実に喉を詰まらせつつ、来てはいけなかったのだろうかと男の言葉を待つ。
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