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宵桜の花びらが風に舞う頃、見上げればいつだってひとりの女を思い出す。
「……拓也、もう……待っても来ない、行くぞ」
沈んだ若の声に、
桜の枝に伸ばした手を下ろして振り向いた。
宵桜の花びらが乱舞する中、
若の後ろで桜の木を見上げるひとりの女から目が離せない。
幻だとわかってるのにその立ち姿から目が離せない。
『3年後、まだわたしのことを好きだったらここで』
別れ際に泣いた。
こんなにもひとりの女を好きになるなんて思わなかった。
抱き締めたくて、だが、権力という絶大な壁には抗う術もなくて引き裂かれた想いは胸に燻ったまま。
「……美桜?」
ざあっ、
花びらを巻き上げる風が桜並木の中を通り抜けた。
今、ここで会えたら抱き締めて今度こそ離さない。
死ぬまで一緒だ。
今、ここで再び逢えたなら―――
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