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その場には、生温い風でかき回された、鉄と血と硝煙の臭いが満ちていた。
ざわざわと騒ぎ立てている木々を照らす三つの月が、次々と流れてゆく叢雲(むらくも)に隠されては顔を出す。遠くから、獣の遠吠えが聞こえてくる。
「あぐっ」
と呻き声を上げた浅野尚(あさのたかし)の胸からは、制服を突き破った剣の切っ先が、凶悪な光を放っている。そこから滝のようにこぼれ落ちた鮮血が、枯葉の降り積もった地面をぼとぼとと叩いた。その凶行は、常陸美紅(ひたちみく)の眼前で行われた。瞬間、美紅は全身の血が逆流するかのような感覚に陥った。
「浅野ぉっ! な……なにしてんの、あんたはぁっ!!」
浅野の背後から剣を突き立てていた“騎士”の頭を、ドンという鈍い音が弾き飛ばした。騎士は重厚な金属音をがしゃんと鳴らし、地に仰向けに倒れた。美紅は、両腕で構えたデザートイーグル(大口径拳銃の一つ)を発砲した姿勢のまま、はぁはぁと荒い呼吸を繰り返す。浅野を突き刺した男が装備していた鉄製の兜(かぶと)も、デザートイーグルの威力には無為だった。
美紅の腕には、びりびりとした発砲の感触が生々しく残っている。それは一つの命を終わらせた感触だった。
しかし、今の美紅には、もうそれに対しての感慨など何一つ無かった。おそらくは”人”であろう生物を殺したとしても、だ。
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