3人が本棚に入れています
本棚に追加
「大丈夫、浅野っ!?」
美紅は地に血を落とし続ける浅野に駆け寄ると、傍らに膝をついた。
剣が胸を貫通していたのだ。出血量だって半端じゃない。大丈夫なはずがないとは分かっていながら、美紅はそう呼びかけるより他に無かった。
浅野は地面に座り込んでいる。いまだ自らの胸に刺さったままの剣を、項垂(うなだ)れ震える手で掴んでいる様は、甲子園でサヨナラホームランを打たれた投手のようだった。
浅野は、まだ生きている。通常あり得ないことだと思われるが、“ここ”ではこういうことが多かった。即死レベルの損傷を受けながらも、浅野は駆け寄った美紅の顔を見上げ、答えようと口を開いた。
「僕、さ。実は、お前のこと、好き、だった」
片方のレンズが割れてしまっているメガネの奥、浅野の瞳が三つの月明かりを受けて揺れていた。
「何を言いだしちゃってんの、あんた!」
想定外の言葉に、美紅は思わず浅野の頭をはたいてしまった。その衝撃で、浅野が「がはっ」と吐血した。
「ご、ごめんごめん! でも、それどこじゃないでしょうが! 血を、血を止めないと!」
銃を放り投げた美紅は浅野を抱き起し、スカートのポケットからハンカチを取り出す。
なぜ浅野が今、この状態で告白などするのか? その意味は、あまり恋愛経験のない美紅にも分かっている。浅野は、思いを遺したくないのだ。つまり、死を悟ったということだ。美紅はそれを認めたくなかった。まだ大丈夫。浅野は死なない。美紅の平手打ちには、そういう気持ちが詰まっていた。
「バカ野郎、常陸! 後ろだぁっ!」
「え? きゃあっ!」
がきん、と剣のぶつかる音がした。美紅が振り返ると、そこには長身で赤髪がトレードマークの高峰純也(たかみねじゅんや)が、敵から奪った剣で騎士の斬撃を防いでいた。
最初のコメントを投稿しよう!