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「お父さん、落ち着いたら?」
娘の加奈が大きなお腹をさすりながら、言う。
「これが落ち着いていられるか! 如月の家は男の子が産まれたんだ! 家は必ず女の子じゃないとダメなんだ!」
「必ず女の子じゃないとって、だから調べようかとしたのに、それもダメなんだもんね。どうするのよ。ベビー服もおもちゃも全部、女の子モノで……男の子だったら」
「だーっ! 不吉なこと言うな。如月の家の娘は必ず男の子を産むと言って成し遂げたんだ。家も続くぞ!」
「どうして勝手に許嫁の約束するかな?」
「男同士の約束なんだ!おまえの時はってな」
「あたしと由紀ちゃんが女の子だったから、孫に約束が移行?」
「いいだろうが!」
「まぁ、あたしは健康であれば女の子でも男の子でも、どっちでもいいけどね」
「よくない! 家は必ず女の子じゃないとダメなんだ」
「頑固なんだから」
「ウッ」
「きたか! 看護師さんを呼んでくる」
母を亡くした加奈にとって、父親は唯一の家族だった。
夫は妻の自分より、愛人を選び去って行った。
加奈に残されたのは、新しい家族になるお腹の子と父親だけだった。
分娩室に移動され、苦しみのうえに加奈は女の子を産んだ。
元気に産ぶ声をあげる我が子が嬉しかった。
なにより、父親の喜びは凄まじかった。
本来の父親の代わりに孫を抱きあげ、涙を流しながら喜び、また加奈に対してよくやったと褒め言葉を並べる。
如月の家には、男の子が。
加納の家には、女の子が。
これが全てのはじまりだった。
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