第1章

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「お父さん、落ち着いたら?」 娘の加奈が大きなお腹をさすりながら、言う。 「これが落ち着いていられるか! 如月の家は男の子が産まれたんだ! 家は必ず女の子じゃないとダメなんだ!」 「必ず女の子じゃないとって、だから調べようかとしたのに、それもダメなんだもんね。どうするのよ。ベビー服もおもちゃも全部、女の子モノで……男の子だったら」 「だーっ! 不吉なこと言うな。如月の家の娘は必ず男の子を産むと言って成し遂げたんだ。家も続くぞ!」 「どうして勝手に許嫁の約束するかな?」 「男同士の約束なんだ!おまえの時はってな」 「あたしと由紀ちゃんが女の子だったから、孫に約束が移行?」 「いいだろうが!」 「まぁ、あたしは健康であれば女の子でも男の子でも、どっちでもいいけどね」 「よくない! 家は必ず女の子じゃないとダメなんだ」 「頑固なんだから」 「ウッ」 「きたか! 看護師さんを呼んでくる」 母を亡くした加奈にとって、父親は唯一の家族だった。 夫は妻の自分より、愛人を選び去って行った。 加奈に残されたのは、新しい家族になるお腹の子と父親だけだった。 分娩室に移動され、苦しみのうえに加奈は女の子を産んだ。 元気に産ぶ声をあげる我が子が嬉しかった。 なにより、父親の喜びは凄まじかった。 本来の父親の代わりに孫を抱きあげ、涙を流しながら喜び、また加奈に対してよくやったと褒め言葉を並べる。 如月の家には、男の子が。 加納の家には、女の子が。 これが全てのはじまりだった。
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