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「なっ……なにすんだよ! 本当のことだろ?!」 切れ長の瞳で、ギロリと睨まれる。中学の頃まで取っ組み合いの喧嘩などざらだったが、志由はこんなに簡単にキレる人間ではなかった。 「……悪い」 志由が目を伏せ、掴んだ手を離す。 彼方はゴホゴホと咳き込みながら、志由に憤りの視線をぎりぎりと送った。 「バカ力め!」 「すまない……。本当は、こんな事をしたいんじゃないんだ」 志由が頭を抱えながら、床に座り込んだ。 イライラとさせながらぐしゃぐしゃと髪をかき回し、握った拳でダンと床を叩く。 「くそっ」 そして何度も何度も、拳から血がにじみ始めるほど床を殴りつける。 正気の沙汰とは思えなかった。これから出撃なのだ。 「おい! 止めろ!!」 彼方が志由の黒髪に手を伸ばす。今の志由はまともじゃない。彼方は彼のこんなに彼が乱れる姿を一度も見たことがない。 志由はいかなる時も冷静で、強い男だった。 癇癪をおこしたり、先にキレるのはいつも彼方の方である。確かに、狂ってもおかしくない状況ではあった。でも、志由の方が先に壊れるなど、思ってもみなかった。
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