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「もう、いい。俺に優しくするな」 伸ばした手を、平手打ちで叩かれる。 彼方には志由の言葉の意味が分からない。喧嘩はするが、二人はいつも一緒で、励ましあい、同じ時を過ごしてきた親友だ。 彼は特別で、彼のいない世界など考えられなくて。そんな志由だからこそ、最期までまともでいて欲しい。 「優しくするなとか無理」 彼方は、子供を抱く母親のように両手で志由の体を包み込んだ。 もうずっと昔から知っている志由の匂いが、ふわりと鼻腔に付く。 志由は大きな体を小刻みに震わせていた。息遣いと気配で、彼方は彼が泣いているのを察知した。 「志由の思い残したことって何だよ。聞かせろよ」 だらりと垂れ下がっていた志由の腕が、彼方の背中に回る。ぎゅっと抱きしめられたまま志由の唇がゆっくりと開いた。
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