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それ以降はあまり話が弾まずに、ジルバートのため息を何度も聞きながら、留置所の檻の中へと戻された。
最終刑罰房とは違って居心地が良い。
もちろん外界に比べると狭苦しく感じてくるが、多少動き回れるだけでカナミは満足だった。
寝るための布団もある。
キチンとした食事も与えられる。
数ヶ月前に比べるとまるで夢の国のように思えてくる。
「明朝、お前を迎えに来るからな。 大人しくしているんだぞ」
「俺は子どもか?」
鉄格子越しにそう告げて、ジルバートは肩を落としながら去っていった。
大人しくしていろと言われたが、体の隅々まで持ち物検査をされてしまったために、悪さなど出来るはずがない。
針金一つあれば脱獄くらいは可能だ。
だが明日には首都を出ることが出来るのだから、あまり焦る必要も無いだろう。
最終刑罰房にいる時は自分の爪を使って脱獄しようとしたが、それは失敗に終わった。
不審な動きを見せてしまった後、しっかりと指一つ一つに鎖を巻かれて対策されてしまったのだ。
逆に言えば、指さえ自由なら何でも出来る。
徒歩で世界を回るという無用心すぎる旅であるのなら、どんな錠前を使われてもいつでも逃げられそうだった。
カナミは壁にそっともたれかかり、物思いに耽る。
内乱が起きた国から逃げてきた公女と、かなり無理を言われている小隊長。
大人数での旅ですら無い。
何を考えているのか不思議になるほど甘過ぎる計画だ。
東へ向かうのはカナミにとって丁度良かった。
法外地域と呼ばれる区域が東にはある。
そこに近付いた辺りで錠前を外し、二人を出し抜いて逃げれば追ってこられないだろう。
協力するつもりなど微塵も無い。
カナミは不敵な笑みを浮かべていた。
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